「ーーすき」
酒精まじりの寝言が耳をくすぐった。
この娘の想い人は誰なのであろう。
酔っ払い寝込んでしまったベルナデッタを抱え直しながら生まれた問いかけに、何を考えているのだとヒューベルトは自身自身に呆れ返った。自分の中で生じた問いかけとはいえ、ヒューベルトの職務においても人生においても、何の影響もないものである。そして、それを知ったところで何か利することでもあるかといえば、何もないと即答すらできるのだから。
帝国軍の一将校の恋模様。
そんな取るに足らないことを、帝国の宮内卿であるヒューベルト=フォン=ベストラが頓着しているのだ。少し酒の量が過ぎたかと自省しながら、ヒューベルトはゆっくりと息を吐き出した。
ベルナデッタがやけに重く感じる。
その存在を背中一面に感じて、彼女と繋がっている。
そのことを意識すると、ヒューベルトは地に足がついていないような感覚に陥った。
縁談話が持ち込まれたこともあるというフェルディナントだろうか。
彼であれば分からなくはない。
陽光のように眩い髪に、端正な顔立ち。少しばかり声量を下げてくれれば、良いのだがと思いながら、ヒューベルトは今や双璧とも称される友人の姿を思い浮かべる。
彼であれば、彼であれば?だから何なのか。ヒューベルトは思わず吹き出しそうになった。彼であればどうして納得するのか、自分でもよくわからないのだ。そして、それは素直に面白くないのである。
ヒューベルトの思考は止まらない。
ベルナデッタを彼女の自室の寝台に寝かせ早々に部屋を出てからしばらく、彼女の重み、背中に残っている。耳には彼女の吐息と、そして、あの言葉が纏わりついている。ヒューベルトの苦悩など何も知らない罪深い娘は今頃深い眠りの中で、想い人と甘い時間を過ごしているのだろうか。
「すき」
ベルナデッタの想い人など誰でも良いではないか。
振り払っても蔓のように伸びて、ヒューベルトを苦悩の檻へと閉じ込めてしまう。その短い言葉が呪いの言葉のようにヒューベルトを捕らえていた。