特等席

季節外れの花火大会。
夏の風物詩は、季節を選ばなくなったらしい。
ヒューベルトは、冷え込みはじめた外気ですっかり冷たくなった鼻先を指で軽くこすった。

日中は汗ばむ陽気でも、夜は冷え込んで、握ったベルナデッタの手は体温を感じない。
彼女にしては珍しく、寒さに対しての苦情が聞こえてこない。
寒さより、ヒューベルトより、ベルナデッタはすっかり花火に夢中になっていた。

次々に打ちあがる花火に、ベルナデッタは歓声をあげて、それから、存在を確かめるようにヒューベルトの手をぎゅっと握る。ヒューベルトは花火を他人事のように眺めていた。確かに綺麗だとは思ったが、ベルナデッタのような興奮は全く覚えなかった。すっかり見飽きて、ヒューベルトはベルナデッタの横顔へと視線を向ける。ちょうどそのときまた花火が打ちあがり、スパンコールのように複雑な光がベルナデッタを照らし出した。

花火なんて興味がない。
ベルナデッタにどうしてもと強請られ、そもそも気が進まなかったというのに

勉強を理由に断らなくてよかったと、ヒューベルトは思う。
こうして彼女が楽しげに笑っている姿を特等席で見ていられるのだから。