それは羽ペンが上げた断末魔の悲鳴のようだった。宮内卿ヒューベルトが手にした羽ペンは華奢な構造ゆえか、今にもへし折れそうである。
彼の妻のベルナデッタは、そんな夫に目もくれず、彼の配下の者たちに手作りの茶菓子を振る舞っていた。いつも張り詰めた空気の宮内卿の執務室の空気が、穏やかな日差しの中にいるかのようで、ベルナデッタを中心に楽しげな会話が交わされている。
職務に集中できない。
ヒューベルトは不満を抱え、口元を引き攣らせていた。先ほどから手元の書類は全く変わっていない。読もうとしても頭に入ってこなかった。
不満に気づいてもらいたいとため息を漏らすも、盛り上がっている人々には全く聞こえていないようでなしのつぶてだった。
そもそも誰のためにここにきたのか、自分ではないのか。
ヒューベルトには妻への不満があった。それに、夫婦水入らずにさせてくれないどころか、彼の妻を囲んでヒューベルトをないがしろにして楽しんでいる配下の者たちにも不満があった。
コツコツコツ。ヒューベルトはそういった一連の不満を指で机を叩くことでしか表現できない。次第に眼光が鋭くなり、足を何度かゆすった。
「いい加減に静かにしていただけませんか? 全く集中できない」
はた、と会話が止まった。
配下の者たちは散り散りに仕事に戻り、ヒューベルトとベルナデッタだけが残された。
「やきもちですか?」
「なんとでも……」
柔和に微笑みかけたベルナデッタの視線が突き刺さり、ヒューベルトは顔を背けた。
「ふふ、仕方のないひとですね」
その言葉はかつてヒューベルトがよく妻に向けて放った言葉だった。