君の名はヒューベルト?
「ベルナデッタ、これはどうしてもこちらに?」
ヒューベルトは怪訝な顔をして、ベルナデッタとその腕に抱かれた命なき物体を見た。
黒くて丸い瞳は虹彩がないため、無感情だが、ハの字に縫い留められた唇からは自然と物体からの主張を感じる。
「えーだめですか?」
子供か。
ヒューベルトは心の内で突っ込んでから、ため息を盛大に吐く。
「かわいそうですよ、ねえ、ヒューベルトさん」
ベルナデッタが抱いた物体の両脇に手を差し込み、顔を向けた。
聞こえた。
確かに、呼ばれたのは自らの名だ。
口元を引き攣らせながら、ヒューベルトはベルナデッタの手の内からそれを奪い取ろうと腕を伸ばした。
「あっ、あ、だめですってば。ちゃんと扱ってください」
「これはただのぬいぐるみですが」
イタズラ小僧を摘み出すように、ヒューベルトはクマを模したぬいぐるみの首根っこを鷲掴みにした。
子供を取り上げられた母親が如く、ベルナデッタが両手を伸ばすが高く持ち上げられては手が届くはずがない。
「か、かわいそうです。ヒューベルトさん。そんなふうにしないでください!」
「そのように騒がずとも……」
大きな瞳の端に、これまた大粒の涙がきらりと光っている。どっちのヒューベルトのことを指してるのかは一目瞭然であるが、ヒューベルトはそれを小脇に抱えなおし、ベルナデッタの頭をわしわしと撫でた。
「ヒューベルトさんがお留守の時は、このこがヒューベルトさんなんです」
どこも似ていない。強いて言うのなら平服は揃いであるが、ヒューベルトにとってはたったそれだけだった。
「だからぁ、一緒に、仲良く……」
「はあ……」
だめですか?とトドメの上目遣いに、ヒューベルトは唇をへし曲げた。むうと唸ってから、ベルナデッタをみおろすと、いたいけな眼差しがヒューベルトに刺さった。
「わかりました」
「わーい、ありがとうございます」
かくして、夫婦とそしてその夫の名が名付けられたぬいぐるみが床を共にすることになった。
隣ですやすやと眠る妻、もとい、くまを隔てて気持ちよく眠る妻を尻目に、今日は久しぶりに身体を重ねたい気分だったヒューベルトが眠れぬ目を窄めたまま、しばしの間納得いかないと心の中で呟き続けるのだった。