アオハル

 ベルナデッタは唇に指を触れさせた。
彼の感触を求めて、そっと優しく押し撫でる。

 いつものカフェ――
”夏が終われば、秋がやってきて、冬が来れば……”
カフェで流れていたお別れソングのフレーズが頭の中でぐるぐると巡っていた。

 夏休みもまだ終わっていないのに、ヒューベルトと過ごす日々が今すぐ消えてなくなってしまいそうに思えた。気持ちよくおやすみなさいと言ってお別れをしたくても、今日は何故かそれができなかった。

 口数の少ないヒューベルトだから、ベルナデッタが何か話さなければただ手を繋いで歩くだけになってしまう。夜も深く、門限はとうに過ぎていた。車のヘッドライトが二人を照らしては、過ぎ去っていく。お互いの家の分かれ道で、示し合わせたように立ち止まる。日中はうるさいほど鳴いていた蝉の声もなく、繁華街から離れた住宅街はシンと静まりかえっている。

 帰りたくない。
 言いたくても言えない言葉を飲み込むために、肩にかけたスクールバッグを持つ手に力を込めた。もう片方の手はヒューベルトとしっかり握り合わせていてじんわりと熱を帯びている。

 「ベルナデッタ」

 そろそろ帰るようにとでも言いたいのかと思った。
自分の感情をあまり語ることがないヒューベルトの気持ちに、ベルナデッタは時々迷路に迷いこんでしまう。ヒューベルトとの温度差にもどかしさを感じながら、ベルナデッタは顔を上げた。

 あっという間の出来事だった。
 手首を大きな手で包むように掴まれ、目の前が暗くなってそれから――

 何度か瞬きをして茫然としているベルナデッタと、動揺を隠せないのか口元を掌で覆って目を背けているヒューベルト。何が起きたのかを理解するには、少しばかり時間が必要だった。

 一緒に過ごすようになったのが高校一年生のとき。恋人同士というよりも、兄と妹のような親しい友人のような関係。数名で一緒に出掛けたりしていたところから、二人で会うようになって、それから、最近になってようやく手をつなぐようになって、そこからは何の進展もなかったというのに。

 ベルナデッタは唇に指を触れさせた。
今だに階下で喚き散らす親の声など一切耳に入ってこない。

 彼の感触を求めて、そっと優しく押し撫でる。
 
挿絵