同じ夏は二度と

「同じ夏はニ度と来ないんですよね」

 寄り添うように止められている二台の自転車。背もたれのない木製のベンチには学生服の男女の姿。一見して年の差があるようにも見えるその二人は、お互いの手をベンチの座面に重ね合わせている。

「詩的な感覚をお持ちのようで」
「でも、事実ですよね」
「確かに」

 文系と理系の、ありがちな会話。

「この後どうします?」
「図書館で勉強しようかと思っております」

 はち切れるぐらいにパンパンに膨らんだカバンには、数科目分の問題集が入っている。細長い造形の男子学生と対照的だ。

「あたしはデッサンやらなきゃ」

 デッサンは学校の美術室でしか練習できない。
「一緒にいられない」女生徒が頬を膨らませた。その声には少しでも共にいたいという気持ちが、込められていた。女生徒は口をツンと尖らせたまま足をぶらぶらと遊ばせ、もやもやした気持ちを振り払うように勢いよく立ち上がった。

「夕方、いつもの店で会いましょう」

 いつもの店とは、駅近くのコーヒーチェーン。コーヒー好きの男子学生と口の中にもたつくほどに甘い飲み物が大好きな女生徒が、夏は涼を求め、冬場は寒さをしのぐためによく利用している店である。

「あたし、門限があるんですけどぉ」
「おや、これまで守ったことがあるようには思えませんが」

 男子生徒は肩をすくめ、ベンチに座ったまま、背を向けたままの女性にいつもの調子で問いかけた。

「そうですけど、でも…… ううん、いいんです。夕方、お会いしましょう」

 女生徒は本心を秘めたまま、男子生徒の提案に乗ることにした。
 男子生徒は女生徒が何を言おうとしたのか察しはしたが、それを問いただすつもりはなかった。笑みが刻まれた男子生徒の薄い唇は軽薄そうにも儚げにも見えた。
 自転車のスタンドを蹴り上げる金属音。
 ここでようやく女生徒は振り返った。真後ろに太陽があって、どんな表情をしているのか、男子生徒が窺い知ることはできなかった。

「まだ夏は終わってませんから」
「ですな」

 続くように、男子生徒も立ち上がる。

「途中まで共に参りましょう」
「はい」

 公園を出る二台の自転車。並んで押し歩く二人の学生が、ベンチから遠ざかっていく。